典型的な日本の配電システム
A typical distribution network in Japan

Fig2
いくつかの給電支線と、それぞれが各々13軒に給電する2次配電システムを含む日本の典型的な配電システムの図です。
「実証実験の概要とPHILSシステムの安定性」で取り上げた
Fig1のモデルは、このFig 2で示されている典型的な日本の配電システムをもっとシンプルに
したものです。
全体はパワーシステム、eMEGAsimリアルタイムシミュレータ、アンプ、実際の家から構成されています。
パワーシステムは、154KV等価電源、154KV送電線と、154KVから配電系統の6.6KVに降圧するトランスを含んでいます。
配電システムは2系統の配電線とそれぞれが13軒の家につながった、いくつかの6.6kV/200Vトランスで構成されています。
低圧配電線は、eMEGAsimシミュレータによってシミュレーション用に用意された、12軒のバーチャルの家(負荷)を含みます。
パワーHILSのセットアップ上の主な課題は、シミュレーション全体が不安定にならないようにしながら、いかに模擬する現象の周波数帯域と負荷電力を大きくする事ができるかという事になります。
The simulator, amplifier and house form a closed-loop system
クローズドループはある条件下では不安定になる
パワーHILSでキーとなる装置はパワーアンプです。
通常、パワーアンプは電圧制御モードの場合は高い周波数やパワーレシオを持っています。
典型的な負荷はインダクタンス、抵抗、またはその両方です。
アンプの特性には電圧制御モードと電流制御モードがありますが、一般的に電流制御モードは応答が遅いという傾向があります。
パワーアンプの選択
シミュレータからのD/A出力をアンプに入力し、100V超の出力を負荷に対して供給

周波数特性20kHzのアンプを使用した場合の例
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※アンプからの出力にはアンプの周波数特性に応じた遅延が発生
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この実証実験の最初の段階では他のPHILシミュレータパラメータを最適化し1-2KHzで精度を確保する為 シミュレーションはタイムステップ50μsecで使われました。
不安定さの要因はシミュレータサンプリング(アナログIN OUTやモデルのタイムステップ)や、アンプの周波数特性からくる遅延です。
これらの遅延要素はシミュレーションの精度を最大限に引き出すため取り除く必要があります。
この種の不安定さは、いろいろな原因で引き起こされます。
PHILSを構成するにあたって予め考えておかなければならない問題
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アンプ出力の選択
電流制御か電圧制御のどちらを選ぶか
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配電系統の負荷電力の短絡容量比
負荷電力の増加に伴い不安定のリスクが高くなる
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負荷の種類
電圧制御アンプの場合、キャパシタ負荷だと不安定化のリスクが増し、インダクタンス負荷だと減少する。
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電源インピーダンスの減衰
減衰が低いと不安定さは増加する。
これは分配線に接続されているすべての負荷が小さい場合と同じことになる。
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アンプの周波数帯域
アンプの周波数帯域が高い場合不安定のリスクは増える。
アンプの周波数帯域が低い場合はシミュレーション精度が悪くなる。
従ってアンプの周波数帯域、コスト、シミュレーション精度の間で、最適な条件を見つける必要がある。
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シミュレータのサンプリング周波数
サンプリング周波数が低いと不安定要素が高くなる。
HILSやPHILSに使われるリアルタイムシミュレータの典型的なサンプリング周波数は、20KHzから50KHzの間である。
これらの事情から、PHILSシステムは不安定要素を取り除くように設計する必要があります。
同時に、制御や保護装置を含めた実際の家のパワーエレクトロニクスシステムと、バーチャルな家に設置されたパワーエレクトロニクスの間の複雑な相互関係を含めた、全体としてのシミュレーション精度を上げる必要があります。
シミュレータの精度は、実生活でのパワーエレクトロニクスシステムとモータ負荷の間の相互関係から起きる、実際の安定度をシミュレーションするのに充分な精度が必要です。
しかしながら、シミュレータでは実生活では起こりえない様な不安定な状態は発生させないようにする注意が必要です。
実際の実証実験結果
「実証実験の概要とPHILSシステムの安定性」で取り上げたFig1のような回路の場合、eMEGAsimを使って
50μsecのタイムステップでリアルタイムシミュレーションが確実にできます。
しかしながら、不安定な
現象の検証や回路パラメータと不安定さのリスクとの関係を検証するにはこの回路は複雑すぎます。
解析を簡単にするために等価回路を用意しました。
慎重な設計と解析が、この回路の安定度を高めます。
配電線のインピーダンスは、インダクタンス0.127mHの配電線のインピーダンスと等価と、モデル上では
評価されています(短絡電流を5000A相当とした場合 50Hzで0.04Ω)。
家の配電回路モジュールは、
電圧駆動形(電圧制御形と同じ意味)パワーアンプで、電流信号をフィードバックしていますので、
誘導性の配電回路への直接的な電流注入は、状況によって安定度問題を生じます。
そのため
、配電線のインダクタンスに並列に4Ωの抵抗を接続し、5kHz以上の高周波に対するインピーダンスを
抑制するようにしています。
パワーアンプの周波数バンド幅は20KHzとします。
オープンループのPHILS伝達機能
完全なPHILSループはボード線図を使って解析することができます。
ボード線図における安定の条件は、
位相シフトが180°を超える領域では、ループゲインが1以下であることが要求されます。
ループの安定度は、負荷の種類や インダクタンス、抵抗、 シミュレータのサンプルタイム、
アンプのバンド幅、 電流フィードバックフィルターなど、いろいろな条件が影響します。
オープンループPHILS周波数レスポンス抵抗負荷
この場合 安定度は負荷電力が12KW以下の場合安定しています。
この時オープンループゲインは
すべての周波数で1以下です。
オープンループHILS周波数レスポンス 1 kHz電流フィードバックフィルタ 抵抗負荷
折れ点周波数1kHzの電流フィードバックフィルターを付け加えると、最大負荷電力はFig.7に示すように
約70kWまで増大します。
-3dBが折れ点周波数になるのは1次遅れ系なので、電流フィードバックフィルタは
一次遅れ系であり、それも含めたループ全体のゲインと位相シフトを示しています。
ステップレスポンスパワーHILSセットアップ電流フィードバックフィルター付の抵抗負荷
いろいろな値の抵抗負荷によるステップレスポンスを示しています。
ここから55KW負荷が
安定度のリミットであることがわかります。
この結果は抵抗Rを電源インピーダンスに並列に加え、電源インピーダンスの減衰を増やしたものです。
この場合、 高周波帯域ではZ1はRに近くなり、オープンループゲインは1が限界です。
(解析対象の)ひとつの家の負荷に対して、 同じ分配線につながっている12軒の家全体の、
等価抵抗負荷(この値は、解析対象の家の負荷より大きいと推定される)による減衰を考慮した
実際の実証実験に対しては、この結果は妥当と思われます。
インダクタンス負荷の場合
インダクタンスと抵抗負荷の比のボード線図
純粋なインダクタンス負荷の場合、PHILSは負荷のインダクタンスが電源インダクタンスより大きければ安定します。
実際にはこのようなケースが多いはずです。
実証実験の場合、電源の短絡電流は約5000Aで、
これは単相200V系の1MVAの負荷の電流に相当します。
短絡電力1MVAの場合の電源インダクタンスは、
一軒の家の等価インダクタと比較するとかなり小さなものとなります。
まとめ
マイクログリッド実証実験とシミュレーション網の中に実際の家を入れて行うPowerHILSについて、
特にPowerHILSセットアップの安定についての検討から下記のことがわかりました。
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PHILSの安定性は負荷インピーダンスの電源インピーダンスに対する比と負荷の種類に大きく影響を受ける。
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純抵抗負荷は1次遅れフィルターが回路に置かれている時は安定している。
フィルターのカットオフ周波数は1-10KHzの間で調整が必要。
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純粋インダクタンス負荷は典型的な配電網では常に安定している。
負荷がキャパシタの場合については、今回は記述しておりません。
この場合、負荷は電流制御モードで負荷電圧をリアルタイムシミュレータにフィードバックします。
今回使用したアンプは、このような特別なケースでも低電力で狭い周波数帯域であれば使用できます。
実際の負荷は純抵抗、インダクタンス、キャパシタよりもっと複雑です。
近未来住宅の負荷はパワエレ負荷や分散電源システムも含んでいます。
このような観点からは、精密な負荷はまだ供給されていません。
すべての負荷タイプに対応するPHILSシステムを設計することは非常に難しいことです。
高周波数が要求された場合は、もっと難しくなります。
OPAL-RTのリアルタイムシミュレータeMEGASIMはスマートグリッドやマイクログリッドと言われる
分野での実機を含めた検証に非常に有効です。
注:参照 IECON2011 「Smart Distribution Grid Laboratory」

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